赤司とマネージャーの夢主は、部活後の帰り道に突然の大雨に見舞われた。そして、二人が雨宿りするため入ったのは古びた図書館だった。その図書館内には何故か人の気配が全く感じられず、二人は不思議に思いながらも奥に進んでいく。
すると、二人は如何にも怪しげな光を放つ1冊の本を見つけた。題名は『the same old story(=よくある話)』だ。赤司は余計なことをしないほうが良いと言ったのだが、好奇心旺盛の夢主はそれを聞かず、その本を開いてしまった。そこで二人は意識を失ってしまう。


ーーー game start



目が覚めたら、そこは森に囲まれた綺麗な花畑だった。赤司は、真っ赤な頭巾を被り、夢主はRPGなどでよく見かける女剣士のような格好をしていた。
「おい待て。なんで俺が赤ずきんなんだ。」
此処が何処なのかわからないし、行く宛もなかった二人は、とりあえず森を抜けることにした。幸運にも花畑から長い道が出来ていて、そこを歩いて行けば何処かの街に出た。しかし、そこはどうも日本とは思えないところで。例えるなら童話などに出てくるような洋風の街並みだった。
「やっぱり、此処って本の中なんじゃ…」「仕方ない。街の住民に声をかけてみよう。まだ此処がどういうところかわかっていないし、危険ではあるが……帰る手がかりが一つもないんだ。このままでは、日が沈んでしまう。危ないから俺1人で行ってくる。お前は、何処かに隠れていてくれ。様子がおかしそうだったら、俺に構わず逃げるんだ。いいな?」「え、でもさ。赤ずきんより剣士の私が行ったほうが良くない?」「……………。」
その後。お互いに意見を譲らず、結果的に二人で行くことに決まった。



ーーー花屋の桃井

二人が誰に話しかけようかと行き交う人々を見ていると、目に止まったのは見覚えのある、桃色の長髪を持った女性だった。思わず名前を呼ぶと、桃井そっくりの女性は振り返り「どうして私の名前を?」と不思議そうに尋ねた。どうやら彼女は桃井なのだが、二人の知る桃井ではないらしい。
二人は信じてもらえないだろうと思いながらも、自分達が異世界から来たことを話す。すると、彼女は「ああ、よくあることですよ。」と笑みを浮かべた。
「ここは、とても不思議なセカイ。知っているようで知らない、似ているようで全く違う。どれが本物?どれも偽物?わかんない。わかんないけど、そんなの気にしなくていいんです。だって、どれもちゃんと此処に存在しているんですから♪」「「は、はあ…」」
「ここの街の人は皆、余所者さんにも優しい人ばかりです。帰れなくても大丈夫!きっとあなた方も気に入ってくれると思いますよ。あ、そうだ!実は私、帽子屋さんのお茶会に招かれてるんですけど、用事が入ってしまって…私の代わりに今から行ってきてくれませんか?」「帽子屋って…不思議な国のアリスに出てくる、あの変な質問ばかりする人?」「確か、イカれた帽子屋と呼ばれている…」「そうそう!詳しいねー。ちょっと変わってるけど、面白くて良い人だよ!色々なこと知ってるし!」「「色々なこと…」」「わかりました。行きます。」「わあ、ありがとうございます!あ、そうだ。お礼にお花プレゼントしますね!何のお花が好きですか?」「え、と……じゃあ、××を。」「××!あなたに似合う綺麗なお花ですよね!はい、どうぞ。」「ど、どうも。」
赤司と夢主は、帰る手がかりを掴むため帽子屋のお茶会に参加することにした。 



ーーー帽子屋のお茶会

「なんか、女性が多いね。」桃井が書いてくれた地図通りに行くと、大きなお屋敷があった。そして、その庭で黄色の薔薇に囲まれながら、楽しいお茶会が開かれていた。「黄色いバラを見て、もしやと思ったが…」女性が集まる中心にいたのは、黄瀬にそっくりな帽子屋だった。
「あ、初めまして!新しいお客さんッスね。オレンジジュースとブドウジュース、どっちが良いっすか?」「え…じゃあ、オレンジジュースで。」「あー生憎今は、林檎ジュースしかないんッスよ。」「「じゃあ、なんで聞いた。」」
「このセカイのことを知りたい?なら、俺がだす問題に答えてくださいッス!全部、答えられたら俺が知っていることお話するッスよ!
それじゃあ、問題。雲は綿飴みたいなのに甘くないのはどうして?好きな人といると胸がドキドキするのはなんで?俺がキラキラ輝いているのは何故?この、砂時計が落ちるまでに答えてくださいッス。」
「雲は水蒸気を含む空気が上昇し、冷やされることで作られる。つまり、雲は氷の結晶や水の粒の集まりだ。しかし、綿飴は物質の三態変化と遠心力を利用したもので、材料は主にザラメというものをうんたらかんたらーーよって、雲は綿飴と違って砂糖が入ってないため甘くない。胸がドキドキするのには、色々と原因があるが、フェニール・エチル・アミンという脳内ホルモンの濃度が上昇することが主な原因だな。これにより、エストロゲンなどのいわゆる恋愛ホルモンが分泌されうんたらかんたらーーというわけだ。そして、最後のお前がキラキラしているのは何故かという問題だが、それはこれからお前が星になるからだよ。さあ。歯を食いしばれ、黄瀬。」「な、なんで俺の名前知って……ってか、怖いッスよ!アンタ!!」「このセカイに一緒に来た人が赤司くんで良かったよ…。」
全て答えた赤司に黄瀬は「約束通り、俺の知っていることお話するッス。えーと、このセカイのことだっけ?それを聞くってことはアンタらは余所者なんスよね。」「ああ。その、余所者はよくこのセカイに現れるのか。」「そうッスね。半年に2、3人は来るッスよ。俺も何人かとお会いしたことがあるし。」「じゃあ…その人達が元の世界に戻れたって話は聞く?」「いや、聞いたことないッスね。このセカイにやってきた人は、始めこそ元の世界へ帰りたがるんスけど……どういう訳か7 日ほど経つと元の世界のことを忘れちゃうみたいで。最後にはこのセカイの住人として順応しちゃうんスよ。」「そんな…っ」
泣きそうな顔をする夢主の頭を、ポンポンと優しく叩きながら赤司は「このセカイのことで、他に知っていることがあれば教えてくれ。」と言った。「うーん。あ、トビラの向こうにはもう行ったッスか?……その反応はまだみたいッスね。実はセカイっていうのは沢山あって、全て『セカイのトビラ』っていうもので繋がってるんス。この街には生憎、トビラは1つしか無いんスけど。もしかしたら、何処かにアンタらのいた世界へ繋がるトビラが存在するかもしれないッスよ!……でも、トビラは沢山あるし、気ままなトビラは長い間姿を見せないこともあるんで探すのはかなり困難だと思うッスけど。」
「可能性があるのなら行こう。この街のトビラは何処にあるんだ?」「案内するッス!」黄瀬に案内され、パン屋と本屋の真ん中にある違和感しかない大きなトビラの前に二人は立った。そして、覚悟を決めると次のセカイへ旅立った。「他のセカイには悪い奴とかもいるから、気をつけるんスよー!」



ーーーお菓子とむっくん

「うっ、なんだ…この甘ったるい匂いは?」トビラの先は、お菓子で作られたセカイだった。家も道路も木々も全てがお菓子。まるで、ヘンゼルとグレーテルにでもなったみたいだ。「すごい、幼い頃に夢見たお菓子の家だ…!た、食べてみてもいいのかな?!」「みょうじ、やめておけ。衛生的に良くない。」赤司にそう言われ、夢主は泣く泣く諦めた。
「しかし、あいつが喜びそうなところだな。此処は。」「あいつって…ああ、紫原くん?お菓子の妖精さんだもんねー。」「…そろそろ、暗くなってきたな。」「ほんとだ。何処かの家に泊めてもらえないかな?」そんな話をしていると、夢主のお腹からぐーきゅるるるという音が。「……みょうじは腹に、ずいぶん大きな虫を飼っているんだね。」「あははー。」だって、そろそろ夕飯の時間だし、目の前にこんなお菓子が沢山あったら食べたくなるじゃん!と夢主は心の中で叫ぶ。
すると、「そこの子さー。お腹空いてるなら、これ食べるー?」と聞き覚えのある声が。見ると、ついさっき話題に出た人物がそこにいた。「紫原くん!」「あらら?なんで俺の名前、知ってんのー?」紫原に訳を話すと「ああ、余所者さんだったんだー。泊まる宛がないなら、俺のとこ来るー?」と軽く家に招いてくれた。さすが、紫原(もどき)だ。
紫原はこのセカイで
このセカイにあるトビラを知らないか?と尋ねると「んーとね。広場にいっぱいあるよー。」とのんびり答えた。二人は明日そこへ案内してもらうことにした。夕飯に出てきたのは勿論、お菓子だった。それを見た赤司は我慢ならない、と立ち上がる。「お菓子ばかり食べていては健康に悪いだろう。紫原、キッチンを借りるぞ。」「待って待って待って!赤司くん、料理破滅的じゃない!」「何を言っている。俺は赤司の名を継ぐ者だぞ。料理くらい一通り作れる。」「ダウトおおおお!皆でお泊り会した時の悲惨な光景は忘れない!私が作るから、赤司くん達はここで待ってて!」拗ねる赤司を無視した夢主は、最初のセカイで材料を買い揃えると、白米に味噌汁、鮭の西京焼き、かぼちゃの煮物、白菜ときゅうりの漬物などを作って食卓に並べた。
紫原は「お菓子好きだけど、たまにはこういうご飯もいいよねー。」と美味しそうに食べてくれた。赤司は味噌汁に入ったワカメを残そうとしていたので、夢主は「残さず食べてね。」と黒い笑みを浮かべた。
次の日、広場に向かうとそこにはトビラが5つもあった。赤司達は片っ端から開けていくが、どれも元の世界に繋がってはいない。仕方ないから、違うセカイに行こうということで、二人は紫原とは別れて一番安全そうなセカイのトビラを入っていった。「あんまりお菓子食べ過ぎちゃ駄目だよー。」



ーーー薬剤師、秀徳1年

トビラの先は、大きな湖が見える自然豊かなところだった。「静かでいいところだな。」「そうだねー……って、ああああ赤司くん!あれ!あれ!」夢主が指差す先には見慣れた緑頭が地面に倒れていた。「緑間くん!どどどどうしたの!?」「…う、うう……お前は……っ!?それは××か!頼む、その花を俺に譲って欲しいのだよ!!」「え?あ、うん。いいけど……もしかして、それ今日のラッキーアイテム?」「っ!お前もおは朝信者か?」「えっと…まあ、そんな感じ。(このセカイにもあるんだ。おは朝……)てゆか、その怪我大丈夫なの?」「ああ、なんてことないのだよ。実は今日、俺の蟹座は最下位だったんだが、突然の強風でラッキーアイテムの××も湖に落とし、そのまま奥へと流されてしまってな。おかげで散々な目にあったのだよ。それより、お礼がしたい。もし、これから時間があるなら俺の家がここを少し行ったところにあるから、昼くらいならご馳走するのだよ。」「ああ、お邪魔させてもらおう。」
緑間の家に着くと、そこは薬が沢山置いてあって、彼が薬剤師であることが判明した。そして、彼らを出迎えたのは「真ちゃんおかえりー。って、あれ?お客さん?」「ああ、高尾。こいつらは赤司とみょうじだ。さっき、俺が困っているところを助けてもらってな。礼に昼食を食べていってもらうことにしたのだよ。」「なるほどな。まあ、狭いとこだけどゆっくりしてけよ。」
それから、皆で高尾の作った昼食をとった。どれもすごく美味しかった。聞くと、高尾は緑間の助手をしているらしい。食べ終わると、高尾は「お前らってさ、余所者だろ?」「どうしてそれを?」「見たことねぇ顔だし、旅人って言ったらほぼ余所者で間違いねえからなー。余所者なら気を付けたほうがいいぜ?この国は法律が厳しいから。」「と、言うと?」「何かと文句つけて罰金支払わせようとするんだよ。」「俺もさっき、花を湖に落としたところを、ぽい捨てだと言われ金をとられたのだよ。全く、理不尽にもほどがある。」「あー。何でか真ちゃんは特に厳しくされてるからなー。まっ、お前らも不法侵入だとかって捕まるかもしんねぇし、あんまウロウロしないほうがいいぜ。」「…それなら、早く次のセカイへ行ったほうがいいな。緑間、この近くでセカイのトビラがある場所を知らないか?」「ああ。トビラなら、ここから数十分のところにあるのだよ。」「よし、なら悪いが案内を……っ!みょうじ、」「えっ?」
人一人隠れられそうな大きさの木箱に突然押し込められ、理解がついていかない夢主。一体何なの、と声を出そうとしたところで、バンッというドアが豪快に開く音が聞こえた。「姫様の命令だ!赤頭巾を被った男を城へ連れて行く。」



ーーー赤に恋する姫君

「鏡よ鏡。このセカイで一番美しいのはだあれ?」『それは、緑間真太郎「また、あの緑男なの?!」……の家にいる赤頭巾を被った男です。』「へ?赤頭巾?」城の中にある広い自室で、この国の姫は首を傾げた。真実の述べる魔法の鏡は『どうやら今日、異セカイからやってきたようです。』と説明する。すると姫は、すぐに兵隊を呼び、赤頭巾の男を連れてくるように命じたのだった。
そうして、城に連れて来られた赤司は「俺が何かしましたか?」と姫に尋ねる。部屋には兵隊が何人もいるから下手なことはできないのだ。姫は赤司の言葉を無視し「その頭巾をとりなさい。」と命令する。はあ、と溜息をついた赤司は仕方なしに赤頭巾をとった。すると、何故か姫がワナワナと震えだす。そして…「あなたよ!あなたが、わたくしが求めていた理想の王子様よ!」目をキラキラ輝かせながら姫はそう言った。
「あの薬剤師の緑間真太郎っていう男は、顔は綺麗なのだけど性格が面倒くさいのよ。いつも変な物持ち歩いてる変人だし。私は、もっと紳士的で優しくて美しい殿方と結ばれたいのよ!……そして、そんなときに現れた運命の人。貴方、お名前は?」「あ…あお、みねです。」咄嗟に嘘を吐くと、姫は驚いたように言った。「青峰?あら、偶然。私の下僕に青峰という名前の男がいるのよ。貴方と全く違いガサツな男だけれど。」「……そうなんですか。」絶対に、自分の知っている青峰だな。そう赤司は確信した。その後、「そうだ。青峰様との婚約パーティーもかねて、今夜舞踏会を開きましょう!早速、皆に伝えなくちゃ…!」とウキウキする姫に、赤司はげっそりした顔で「いや、あの……俺は婚約を了承してないんですが、」と言うが、姫は全く聴く耳を持たなかった。
一方、緑間家では……「ど、どどどどうしよ!赤司くんが連れて行かれちゃった!」「まあまあ、落ち着けってみょうじちゃん。」「きっと不法侵入したことがバレて、今頃すごく酷い罰とか受けてるんだ。どうしよう。もしかしたら、懲役10年とか…っ、まさか死刑とか…?!私、赤司くんを助けに行かなくちゃ!」「どうどう。とりあえず今、真ちゃんが城の方へ様子見に行ってくれてるから。これからどうするかは、真ちゃんが帰ってきてから決めようぜ?な?」「そう、ですね…すみません。取り乱してしまって、」「いや、気にすんな。…お!ちょうど真ちゃんが帰ってきたみたいだぜ。どうだった?」帰ってきた緑間にいち早く気がついた高尾がそう尋ねる。すると、緑間は彼らしくもなくボケーッとしながら、ゆっくり口を開いた。「赤司がどうなったかはわからなかったんだが……今夜、青峰という奴と姫様の婚約パーティーが開かれることになったらしい。」「ええ!青峰くんが婚約!?」「みょうじ、知り合いか?」「あ、うん……まあ、」「おいおい、随分急じゃん。つか、赤司は結局どうなったのww」ケラケラ笑う高尾に、緑間は「俺もよくわからん。だが、これはチャンスなのだよ。パーティーに参加すれば、俺達でも城内に入ることができる。」「なるほど!それで、パーティーをこっそり抜けだして、赤司くんを探しに行くんだね!」夢主達は、赤司が主役のパーティーだということも知らず、作戦会議を始めたのだった。



ーーー青峰、仕事しろ

「ど、どうかな?」「お、いいじゃん!よく似合ってる。」「ふん、馬子にも衣装なのだよ。」「真ちゃんも可愛いってよ。」「おい!俺はそんなこと言ってないのだよ!」舞踏会と言ったら、綺麗なドレスが必要不可欠だ。顔が広い高尾が知り合いに借りたというドレスに着替えた夢主と高尾は、早速お城へ向かった。(緑間は目をつけられているためお留守番。)
お城にはやはり姫の婚約パーティーとあって人が沢山集まっている。よし、これなら少し目立つ行動をとっても大事にはされないだろう。作戦を実行するために夢主は口元に手を当て、その場に座り込んだ。それを見た高尾が近くにいた強そうな兵隊に戸惑いなく声をかけた。「すみません。ちょっと、俺の妹がこの人混みに酔っちゃったみたいで。何処かで休ませてもらえませんか?」「そんな場所は用意してない。具合が悪いなら連れて帰れ。」「そんな…!妹は幼い頃から姫様に憧れていて、今日ついにお姿が見れるととても楽しみにしていたんです!」「……はあ。わかった。ついてこい。」兵隊は、ある部屋に夢主と高尾を連れて行った。「ここで休んでいろ。気分が良くなったら、またパーティーに参加すれば良い。場所はわかるな?」「うっす。ありがとうございました。」兵隊が仕事に戻って行くのを見送った後、高尾と夢主はほっと胸をなでおろした。「高尾くん…」「ん?」「何だか、すごい罪悪感…」「俺も…まっ、これも赤司を助けるためだ。さっさと見つけて帰ろうぜ。」二人は部屋にある通気口を外すと、そこに戸惑うことなく入っていった。
一方その頃。すっかりドレスアップした赤司は、彼のために設けられた広く豪華な部屋で、これからどうするか考えていた。(…まずいな。このままでは、あの姫と婚約させられてしまう。早くここから出なければ。…しかし、)「どうやってこっから逃げようかって顔してるな。」「っ、(青峰…!)」「よお。あー…青峰様?」「……(青峰はお前だろ。)」「フッやっぱ、皆が自分の名前に様付けてるのは気分がいいな!……あ、俺も青峰って名前なんだけどよ。」「…ああ、俺と同じ名前の奴がこの城にいることは聞いていたよ。確か、姫の下僕なんだろ?」「下僕じゃねぇよ!…くそ、あのワガママ美形好き女、勝手なこと言いふらしやがって。」
青峰は苛々しながら部屋のドアノブに手をかけた。「ほら、行くぞ。姫はもう少し時間かかりそうだから、先に行ってろって「おい。青峰、」……あ?」赤司は目をカッと開きながら言った。「お前はこの城の間取りに詳しそうだな。」



ーーー助けに来たよ、赤頭巾

「は?俺に逃走の手伝いをしろって言うのかよ。ふざけんな。そんなことしたら、確実に俺の首が飛ぶだろ。」「お前も逃げて、他のセカイへでも行けばいいだろ。どうせ、お前にこの仕事は向いていない。」「はっ、確かにそうかもしれねぇけどよ。俺はわざわざ危険な目に合ってまでして、この仕事をやめようとか思わねぇよ。ここ、割と時給いいしな。」「……青峰。勘違いをするな。」「は?」「これはお願いじゃない、命令だ。お前の都合など俺が知ることか。」「…っ(なんだ、こいつ…威圧感が、)……へえ。随分、勝手な物言いじゃねぇか。姫の話では、お前は紳士的で優しい人らしいんだがな。」「フッ、そっちが勝手にそう思い込んでいるだけだろ。俺は元よりこういう人間だ。」赤司はそう言って、青峰にゆっくり近づいていく。青峰は額に汗を浮かべながらも、何をされても大丈夫なように、構えの姿勢をとった。「時間がない。もし、俺の命令に従わないようであれば、強行突破を図るしかないな。」「…やれるもんならやってみやがれ!」青峰がそう言ったときーー
「あ、赤司いた!」「え?ほんと!?」「お、おいっみょうじちゃん!そんな、押すな……って、うわああああ!」上にある通気口から落ちてきたのは、赤司を探していた高尾と夢主の二人で。高尾はそのまま下にいた青峰にゴツン。夢主は赤司に抱きとめられたため、怪我をすることは無かった。「大丈夫か?みょうじ。」「う、うん…ありがと。」「よし。赤司も見つかったことだし、早くこっから出ようぜ!」高尾がそう言ったとき、バンっとこの部屋のドアが開いた。
「不法侵入者よ!さっさと捕まえて、牢屋に閉じ込めなさい!」入ってきたのは、姫と沢山の兵隊達。彼らは夢主達に槍の先を向けた。「やっべ、さすがにバレたか。…どうする?」「ここは剣士である私が、「却下。」…即答っ!私、まだ一度も戦ってないんだよ?!剣士なのに!!!」ギャーギャー文句を言う夢主をさりげなく後ろに隠した赤司は、姫の方に視線を向けた。「青峰様、安心なさって?今、助けるわ!」「「青峰、様…?」」「……ああ。残念だけど、この部屋に青峰という名を持つ者は、そこで気絶してる男だけだよ。」「…どういうことなの?」「俺は青峰という名前じゃないんだ。婚約したいなら、そいつとしてくれ。少し…いや、かなり問題行動が目立つが、頼りになる良い男だよ。」「そんな…っ!わたくしは、あなたと結ばれたいのに!」「すまない。俺にはずっと前から、たった1人…愛してやまない女性がいるんだ。だから、君の気持ちには答えられない。」ズキン。そう赤司が言うと、夢主は胸を締め付けられるような痛みを感じた。本人はその痛みが何なのかわからず、首を傾ける。姫は、目に涙を溜めながら口を開いた。「……わかったわ。なら、最後に一つだけ。あなたの本当のお名前、教えてくださる?」「俺は赤司…赤司征十郎だ。」「赤司様…。あなたに慕われる女性が、とても羨ましいわ。」姫は綺麗な一筋の涙を流すと、兵隊たちに夢主達を返すよう命じた。
「まさか、姫の婚約相手が赤司くんだったとはねー。」「俺達、すっかり蚊帳の外だったよなー。」無事、緑間の家に帰ってくると、夢主と高尾は笑いながら先程までの話をしていた。そんな中、当事者である赤司はすました顔で紅茶を飲んでいる。「赤司。お前が初めから婚約を断っていれば、こんなことにはならかったんじゃないのか?」「そうなんだが、姫がなかなか聞く耳を持ってくれなくてね。こっそり逃げだそうとも考えたが、そこの救助隊が随分大胆に登場してくれたものだから、そうもいかなくなったんだ。」「「さーせん。」」「はあ。全く、」緑間は深い溜息をついた。「とりあえず、今日は泊まっていくのだよ。トビラへ案内するのは明日だ。」「ああ、わかった。」「あ、俺も泊まる!今、外でたら夜間外出罪になっちゃう!」「…そんなものまであるんだね。」「3日以上家を空けると、土地放棄罪だぜ?」「「うわあ…」」さっさとこのセカイから出よう。夢主と赤司はそう思った。



ーーー雪のセカイ

次の日。緑間と高尾にトビラまで案内をしてもらった。「世話になったね。」「待て。これはお前達、獅子座の今日のラッキーアイテム、ライターなのだよ。持っていけ、必ず役に立つ。」「真ちゃん、それで昨日二人に星座聞いてたんだな!」「必ずって断言できるところが流石おは朝信者だね!」「ありがたく持って行かせてもらうよ。」
それからお礼と別れを告げた夢主達はまた新たなセカイのトビラを開けた。そこは、辺り一面が真っ白な雪のセカイだった。「……私達がいたところ、春だったよね。」「そうだな。とりあえず、人か家を探そう。」二人はそのまま辺りを探索することにした。雪のせいで足場が悪いし、何よりとてつもなく寒い。吹雪いてなかっただけ幸運か。靴の中には冷たい雪が沢山入り込み、靴下が濡れてしまった。赤司はなかなか来ない夢主に「大丈夫か?」と尋ねる。夢主は「うん、大丈夫。」と答えていたが、だんだん口数が減っていった。これは、まずいと思った赤司は近くに洞窟を見つけるとそこで一度暖を取ろうと提案した。
「貸すよ。少しはましになるはずだ。」そう言って、赤司は夢主に赤頭巾を被らせた。確かにまだ赤司の温もりが残っていて暖かい。夢主は、赤頭巾に口元を埋めた。赤司はそれを確認すると、手頃な太さの木を雪の上に敷き詰めて、火床を作り出した。それから、緑間にもらったラッキーアイテムのライターで火をつける。パチパチという火が燃える音だけが、この空間を支配していた。「ねえ、赤司くん…」「ん?」「私達がここに来てから、もう3日目だね。」「そうだな。」「……私達、こんなんで元の世界に帰れるのかな?」「さあ、どうだろう。トビラを通じて別のセカイへ行けることはわかったが、黄瀬の話だとトビラは数多く存在しているらしいし、元の世界へ繋がるトビラを俺達が見つけられる可能性はかなり低いと思う。…だが、確率は0じゃない。無謀かもしれないけど、ギリギリまで頑張ってみよう。……大丈夫。必ず、俺がみょうじを元の世界へ帰らせてあげるから。」夢主を励ますように、フッと微笑む赤司。それを見た夢主は少し元気が出たようで、「うん。」と頷いた。「このまま洞窟の中で夜を明かすのは、流石に厳しい。…もう、いけるか?」「うん、大丈夫だよ。これ、ありがとう。赤司くん。」夢主は、立ち上がると赤司に借りていた頭巾を返した。
「あ、赤司くん。見てみて!街がある!」「本当だ。行ってみよう。」漸く街に辿り着いた二人は、このセカイにあるトビラの場所を知るため、通行人に話し掛けた。だが、誰もトビラの在処を知らないという。「このセカイには、緑間くん達のいたセカイへ繋がるトビラしかないのかな?」肩を落として夢主がそう言うと、落ち着きのある懐かしい声が聞こえた。「ありますよ。」



ーーー鍵は黒子

「ありますよ。このセカイにも、」「「!?」」「お久しぶりです。みょうじさん、赤司くん。」「っ黒子くん!!……え?なんで私達の名前を、」「あれ。何処かのセカイに住み着かず、旅人をしているようでしたから、てっきり君達も余所者だと思ったんですが…違いましたか?」「君達"も"ということは黒子、まさかお前も…」「はい。僕は、本の外の世界からきた本物の黒子テツヤです。」
三人は、このセカイについて話し合った。
「僕は色々なセカイの図書館に行っては、元の世界に帰る方法を探していました。セカイに関する本は極僅かで、探すのがとても大変だったんですが…漸くこの前、手がかりになりそうな本を見つけたんです。そこにはこう書かれていました。『<終わりのトビラ>を開かば、この物語は完結す。そうせば、全ては元に戻らむ』と。」「なるほど。元の世界に戻るには、この物語を僕たちで完結させなければならないということか。」「そんな有りがちな…(苦笑)黒子くんは、その終わりのトビラが何処にあるか知ってるの?」「はい。それも書かれていました。この国には西の方に森があるんですが、その森をずっと奥へ進んでいくとあるそうです。」「……それを知っているのに、お前がトビラを開けないということは何か開けられない理由があるんだろう?」「流石ですね、赤司くん。そうなんです。終わりのトビラには、とても頑丈な鍵がかかっていて、斧や銃を使っても凹み一つ付けられませんでした。きっと、終わりのトビラを開けるための鍵が何処かにあると思うんですけど……僕は、このセカイに来て今日が7日目です。きっと、明日には僕はこのセカイの住民になっている。君達は、何日目ですか?………なら、あと4日ある。お願いです。僕の代わりに、その鍵を探しだしてください。そして、君達でこの物語を終わらせてください。」
そう言うと、黒子はポケットから古びた鍵を赤司に渡した。「これは、僕が今借りている宿屋の鍵です。一室しか借りられてないですがどうぞ、使ってください。あ、地図も渡しておきますね。」「…黒子はどうするんだ?」「僕は、これから緑間くん達がいるセカイに行こうと思っています。寒いのは苦手なので、このままこのセカイにいたら多分、凍え死にます。」「そうか。」「はい。それから、みょうじさん。」「ん?」「君にはこれを。」そう言って、黒子が渡してきたのは赤と琥珀色の宝石が埋め込まれたチョーカーだった。不思議がる夢主に「頑張ってください。あなたなら見つけられると信じてます。ずっと、傍にいたあなたなら。」と意味深な言葉を残し、黒子は立ち去った。只でさえ影の薄い黒子だが、彼の白い肌は雪と同化して、一瞬で姿を見失ってしまった。



ーーーその夜のこと
 
「黒子くんの言ってたこと、『あなたなら見つけられると信じてます』って…一体どういう意味なんだろ?」宿屋に辿り着いた二人は、ひとまず今日はもう遅いので、明日鍵探しに出ることにした。夕飯も食べ終え、風呂にも順番に入り終えると、布団の上でじーと黒子に貰ったチョーカーを見つめる夢主。先程からずっとこんな状態だ。赤司はそんな夢主に「つけていた方が良いんじゃないか?黒子のことだ。きっと、それにも何か意味があるんだろう。」と何故か少し不満気に言った。夢主は言われたとおり、それを首につける。赤司は「首輪みたいで気に入らないな。」とボソッと呟いた。
寝る時間になり、二人はそれぞれ自分の布団に入ると夢主は「ねえ、赤司くん。」と声をかけた。赤司が顔をそちらに向けると夢主は少し言いづらそうに口を開く。「赤司くんさ。お姫様に、ずっと前から愛してやまない女性がいるって言ってたよね。あれってほんと?」「……ああ、本当だよ。俺はその人に、ずっと片想いしているんだ。」「へえ…赤司くんも片想いとかするんだね。ちょっと意外かも。」「フッ、相手が鈍感でね。なかなか好意に気づいてもらえないんだ。」「そっか、大変だね。……その人のどんなところが好きなの?」「そうだな…全部、かな?嫌いなところなんて一つもない。俺は彼女の全てを愛してる。」「っ、(ズキッ)」「ああ。でも、強いてあげるとすれば、俺を真っ直ぐ見てくれるところかな?」赤司は、目を細めて夢主を見つめる。そして、「明日も早いし、もう寝ようか。」と言った。

「ここは、どこ…?」目を覚ますと、夢主は1人見知らぬ場所に立っていた。傍に赤司の姿はない。周りを見渡せば、チェスやダーツなどで遊んでいる人々が目に入る。窓の外からは、バスケやサッカーをする人々の声が聞こえた。ここは、随分と広くて豪華な部屋のようだけど、金持ち達の遊び場か何かだろうか?大人の多いこの場所で、たった1人の現状に夢主はすっかり怯えてしまっていた。赤司は何処へ行ったんだろう、怖い。不安げな表情を浮かべていると、「ああ。テツヤの次はなまえか。」と後ろから探していた人物の声が。バッと振り向くと、赤と琥珀色の2つの目が此方を見つめていた。



ーーー僕司のセカイ

僕司の世界はとっても愉快なセカイ。そこには沢山の人がボードゲームやスポーツなど、常に何かで勝負している。
「ようこそ、僕のセカイへ。ここの住民は皆、勝負事が大好きでね。いつも、何かしらゲームをして遊んでいるんだ。君もせっかく来たんだし、少し僕とゲームをしようよ。」
ルールは至って簡単。この部屋の奥に僕司の自室がある。夢主はそこに1人で行って、僕司が今一番欲しい物を持って戻ってくる。それが当たっていたら夢主の勝ち。違っていたら僕司の勝ち。時間制限はないが、チャンスは1回だけ。部屋にある物は好きに見たり触ったりしても良いが、壊したり汚したりしてはいけない。
「ただゲームするんじゃ、つまらないからね。何か賭け事をしようか。そうだな…君が勝ったら終わりのトビラを開けるための鍵をあげるよ。……ただし、僕が勝ったら君は一生、ここのセカイの住民だ。いいね?」
ゲームが始まり、夢主は部屋の中を色々物色し始める。棚の上に飾られたトロフィーの数々。テーブルに置かれたチェス盤。クローゼットにはセンスの良い私服と洛山の制服がかけられている。大きな本棚には参考書や分厚い小説など難しそうな本ばかりが並んでいる。その棚の一番下の段にはアルバムらしきものがあって、そこには今までの赤司の写真が沢山並んでいた。家族の写真もある。鍵を見つけ、鍵付き引き出しを開けると出てきたのは日記と腕時計。日記に挟まっていたのは帝光時代に撮った、まだ仲よかった頃のキセキ達の写真だった。腕時計は、どうやら亡くなった母親の物らしい。最後に戻ろうとしたとき現れたのは、ナイフだった。
勝利の象徴。自分が生きてきた証。仲間との楽しかった思い出。母親の形見。辛いことも楽しいことも全てを終わらせる手段。一体今、彼は何を望んでいるのか。僕司の元へ戻った夢主は、僕司に言った。
「あの部屋に、あなたが欲しいと思っている物はなかったよ。」「…何を言っているんだい?」「今、あなたが望む物は、過去にない。今を、未来を変える勇気でしょ?大丈夫、恐れることは何もないよ。私と一緒にこのセカイから出よう。そして、本当に欲しい物をこれから集めていこうよ。一つだけなんて言わないでさ、いっぱい!」「……そうだね。僕の負けだよ、なまえ。はは、負けたのはこれで2回目だ。約束通り、これを君にあげよう。」
僕司は夢主に、大きめの綺麗な鍵を手渡した。これが、終わりのトビラを開けられる鍵らしい。僕司はこのセカイから出られる扉の前まで夢主を案内した。
「残念だけど、僕は此処から出られないんだ。でも、僕はずっと彼と共にいるから安心してくれ。君とゲームができてとても楽しかったよ。いつか、またやろう。」そう言って、僕司は夢主を扉の向こうに追いやった。「ありがとう。またね、もう1人の赤司くん。」



ーーー目が覚めた後

「ーーっ、んぅ……ん?はっ!!?」目が覚め、夢主は慌ててガバッと起き上がった。窓の外からチュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる。今までのことは全て夢?無意識に首に手をやると、つけていたチョーカーは消えていた。そして、代わりについていたのは鍵を通してあるシンプルなネックレス。「夢じゃ、なかった…っ」「みょうじ、おはよう。ぐっすり眠っていたね。コーヒー飲むかい?」「っ!あか…し、くん。……う、ふえ…」「?!どうした。みょうじ、」「うわあああん!赤司くんんんん」突然泣きながら抱きついてきた夢主に、赤司は戸惑いながらもしっかり抱きとめる。そして、事情を説明すると、赤司は「よく頑張ったな。」と言って、夢主の頭を撫でた。
それから、二人は終わりのトビラに向かうと、僕司から貰った鍵を鍵穴に差し込んだ。鍵を横に回すとカチャッという音を鳴る。「開けるよ?」何かあった時のために赤司が前に立ち、ドアノブに手をかけた。ゆっくり開くと、そこから目を開けていられないほど強い光が差し込む。そして、二人はそのまま意識を失った。

「…………っ、あれ?ここって、」目を覚ますと、夢主は何冊もの本/に囲まれて、地面に横になっていた。そこは雨宿りに入ったあの図書館で、どうやら戻って来られたらしい。実感はわかなかった。近くで同じように倒れこんでいる赤司を見つけると、夢主は慌てて彼を起こしに行く。「赤司くん、赤司くん!」「…んん、みょうじ?」「やった、やったよ!私達、元の世界へ戻ってこれたみたい…!」制服のポケットからスマホを出すと、そこにはあのセカイに入ってしまう前の時間が表示されていた。あちらのセカイとこちらの世界では時間の流れる早さが違うらしい。「なんか、夢みたいな体験だったなー。……夢じゃないよね?」「ああ。だって、ほら。」赤司が近くに落ちていた本を指さす。その本は最後のページが開かれていた。『赤ずきんと騎士は元の世界へ帰ることができました。めでたしめでたし。』これにてこの物語はHappyEnd。閉幕です。ご愛読ありがとうございました。

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